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和歌山地方裁判所 昭和62年(ワ)505号 判決

原告

山本泰久

ほか一名

被告

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主文

一  被告は原告山本泰久に対し金一八四万三六〇〇円、原告渡辺和子に対し金一六四万三六〇〇円および各金員に対する昭和六一年三月八日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らの被告に対するその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを四分し、その一を被告のその余を原告らの負担とする。

四  この判決第一項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告山本泰久(以下「原告山本」という。)に対し金六八九万五八二九円、原告渡辺和子(以下「原告渡辺」という。)に対し金六八九万五八二九円および右各金員に対する昭和六一年三月八日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  訴外亡山本サダ子(明治四一年三月一七日生まれの女性。以下「訴外亡サダ子」という。)は左記の交通事故(以下「本件事故」という。)によつて死亡した。

日時 昭和六一年三月八日午後八時三〇分ころ

場所 和歌山市北野一六三番地五先路上

態様 訴外亡サダ子が前記市道道路端を歩行中、被告が軽四輪貨物自動車を運転して前方から進行し、衝突したもの。

死因 訴外亡サダ子は本件事故の約二〇分後、了生会中村病院で直接死因胸部圧迫による心肺挫傷により死亡(死亡当時の満年齢七七歳)。

2  被告は、前記道路端を訴外亡サダ子が歩行中であるのに、前方の注視を怠つた過失により、訴外亡サダ子の前方から軽四輪貨物自動車を衝突させて負傷死亡させたものである。従つて被告は民法七〇九条により損害賠償をすべき義務がある。

3  訴外亡サダ子の相続人はその長男である原告山本と二女である原告渡辺の二名であり、訴外亡サダ子の受けた損害は後記(一)ないし(四)記載のとおりであり、これに基づく被告に対する損害賠償請求権を原告ら両名がこの二分の一ずつ相続・承継し、さらに原告山本は本件事故による訴外亡サダ子の死亡により、後記(五)記載の損害を受けた。

(一) 治療費 金一万九二〇〇円

訴外亡サダ子が本件事故の後、了生会中村病院に搬入され治療を受けたが、その際同病院に支払われた治療費

(二) 入院雑費および付添費 金六〇〇〇円

訴外亡サダ子の本件事故の当日の入院雑費および近親者付添費

(三) 逸失利益 金五六九万六四五九円

(1) 訴外亡サダ子は、本件事故当時家事に従事していた主婦であり、その家事労働を金銭的に評価し、平均的就労年限に達するまでの逸失利益を算定すべきであり、訴外亡サダ子は本件事故当時満七七歳の女子であり、就労可能年数についてはおよそ満六〇歳以上の高年齢者(主婦を含む)の場合はその平均余命の二分の一と解するのが相当である。

(2) 訴外亡サダ子の家事労働による収入は、労働省政策調査部編賃金センサス(以下「賃金センサス」という。)昭和五九年第一巻第一表の女子労働者の産業計・企業規模別計・学歴計の満六五歳以上の女子労働者が決まつて支給される平均給与額二一七万五四〇〇円に基づいて算出すべきであり、また昭和五九年簡易生命表満七七歳の平均余命年数は九・六八年であるから、その二分の一は五年であり、その新ホフマン係数は四・三六四三として算出すべきである。

(3) また訴外亡サダ子の生活費控除割合は四〇パーセント、従つてその生活費は年間金八七万〇一六〇円であると解すべきであり、これを控除したうえ計算した訴外亡サダ子の逸失利益は金五六九万六四五九円となる。

(四) 死亡慰藉料 金一六〇〇万円

訴外亡サダ子が本件事故により、その生命を失つたことによる慰藉料としては少なくとも金一六〇〇万円を下回るものではない。

(五) 葬儀費用 金一〇〇万円

原告山本は訴外亡サダ子の葬儀費用および墓石代として合計金一〇〇万円以上の費用を支出したが、そのうち金一〇〇万円を本件事故と相当因果関係にある損害として被告に請求する。

4  原告両名は、本件事故により、自賠責保険から各自金五〇六万六〇〇〇円の給付を受け(これには、前記訴外亡サダ子の治療費も含まれる。)、さらに原告山本は葬儀費用の一部として、被告から金六〇万円の給付を受けたので、これらを前記損害から控除することとする。

5  被告が、本件事故による損害賠償の一部しか履行しなかつたため、原告らは弁護士である本件訴訟代理人に訴訟の追行を委任せざるをえず、原告らが被告に対し、本件事故と因果関係にあるものとして損害賠償請求し得る弁護士費用としては各自金六〇万円が相当である。

6  以上、原告山本が被告に対して有している損害賠償債権は金六七九万四八二九円、原告渡辺が被告に対して有している損害賠償債権は金六三九万四八二九円およびこれらに対する本件事故の日である昭和六一年三月八日から支払いずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金である(以上の計算関係については別紙計算式1参照。)。

7  よつて原告らは被告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき請求の趣旨記載の金員の支払を求める。

二  請求原因に対する答弁および被告の主張

1  請求原因1、2項はいずれも認める。

2  請求原因3項のうち訴外亡サダ子の相続人はその長男である原告山本と二女である原告渡辺の二名であることは認めるが、その損害額についてはいずれも争う。

同項(二)の入院雑費および付添看護費は理論上発生の余地がなく、同項(三)の逸失利益の主張については後記のとおり、訴外亡サダ子は原告山本と同居しその世話を受けていた高齢者であつて、主婦労働をしていたわけではなく、その逸失利益はない。同項(四)の死亡慰藉料は、訴外亡サダ子が高齢者であること、原告山本一家の経済的支柱あるいはそれに準じるものではなく、原告らの主張金額は著しく高額であつて、その相当額は金一二〇〇万円をこえることがない。

3  請求原因4項はいずれも認める。

4  請求原因5ないし7項はいずれも争う。

5  逸失利益の点について原告らは、訴外亡サダ子が主婦労働をしていたものとして、これを請求するが、訴外亡サダ子は本件事故当時、原告山本夫妻と同居し、同人らから生活の世話を受けていた高齢者であり、いわば楽隠居の身であつて、決してその労働は主婦労働と評価し得るものではない。また訴外亡サダ子が仮に若干の家事の手伝い(例えば留守番あるいは買物等。)をしていたとしても、同居者の情宜に基づくもので、これを金銭に評価するのは誤りである。

原告山本の家族は、原告山本夫婦と長女治永子・次女佳代子および訴外亡サダ子であつたが、本件事故当時である昭和六一年、長女治永子は二〇歳ですでに勤務していたし、次女佳代子は一八歳で高校生であつた。また、原告の妻須和子(以下「訴外須和子」ともいう。)は、競輪場従業員として勤務していたが、その出勤日においてさえ、出勤は午前一〇時半であり、その勤務終了は午後五時ころであつた。また、同人の収入は、昭和五六年金二〇七万円余り、昭和五七年金一六八万円余り、昭和五八年金二〇七万円余り、昭和五九年金一八九万円余り、昭和六〇年金一九三万円余り、昭和六一年金一七四万円余り、昭和六二年金二〇二万円余りと、ちょうど一年毎に増減していて、本件事故にあつた昭和六一年はその減の年に該当しているにすぎず、全体的には同人が訴外亡サダ子の家事労働をあてにして勤務していたとの事実はなく、このことは本件事故の後も通常の勤務を続けていること、同人はその翌年である昭和六二年には金二〇〇万円をこえる収入を得ていることからも明らかである。

また原告山本の家族には病人もいなければ、乳幼児あるいは児童もおらず、これらに手がかかり、その世話を訴外亡サダ子がしていたというものでもない。

以上、原告らの訴外亡サダ子の逸失利益の主張は失当である。

三  被告の主張に対する原告らの反論

1  法律実務上、一般に無職者である場合においてすら、交通事故時に通常の労働能力を有し、労働意欲を有している場合は、賃金センサスの平均賃金により逸失利益が算定されるというのが通常の扱いとなつていて、家事労働従事者については、その家事労働を金銭的に評価し、賃金センサスの平均賃金により逸失利益が算定される扱いになつている。また、概ね満六〇歳以上の高年齢者については、平均余命の二分の一を就労可能期間として考えるというのが、法律実務上一般の取り扱いである。

これらの法律実務からすれば、訴外亡サダ子は家事労働能力を有し、家事労働の意欲があり、後記のとおり現実に従事していたのであり、平均余命の二分の一の期間は家事労働に従事しえたのであるから、賃金センサスの平均賃金を基礎に逸失利益が算定されるべきである。

2  本件関係各証拠から明らかなとおり、訴外亡サダ子は、高年齢者でありながら健康であり、むしろ壮健といえる健康状態であつた。そして現実に原告山本およびその妻である訴外須和子夫婦の共稼ぎを支える家事労働一切を引受け、その家事労働を完遂していた。すなわち、炊事、買物、掃除などの家事一切はもつぱら訴外亡サダ子が処理し、さらに布団の打ちなおし、ゴミ搬出、盆正月の行事、神仏の祭事なども専ら訴外亡サダ子が行なつていた。

この家事労働に支えられて、原告山本は和歌山市職員として働き、その妻である訴外須和子が競輪・競馬場の庶務事務員として働いてきた。原告山本の妻である訴外須和子が、亡サダ子死亡後も従前どおり働き続けていられるのは、訴外須和子がひとえにさまざまな困難を乗り越えるべき努力をした結果であつて、これをもつて訴外亡サダ子が本件事故当時家事一切を行なつていたとの事実を否定することはできない。

第三証拠

証拠関係は記録中の書証目録および証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1項(本件事故の発生および訴外亡サダ子の死亡)、同2項(被告の過失および帰責事由の存在)、同3項のうち訴外亡サダ子の相続人はその長男である原告山本と二女である原告渡辺の二名であることはいずれも当事者間に争いがない。

二  そこで、本件事故により、訴外亡サダ子が受け、原告らが相続・承継し、あるいは原告らが受けた損害の有無およびその金額について判断する。

1  当事者間に成立に争いがない甲第七号証によれば、本件事故の後、訴外亡サダ子が了生会中村病院において治療を受け、その際の費用として金一万九二〇〇円を要したとの事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。しかし、本件全証拠によつても、訴外亡サダ子が同病院において治療を受けた際に、入院にともなう雑費を支出し、あるいは付添看護を受けその費用を要したとの事実は認められない。

2  次に、原告らが主張する訴外亡サダ子の逸失利益について判断する。

(一)  いずれも当事者間に成立に争いがない甲第三号証の一、二、第五号証の一五、二五、第一五号証の一ないし一四、乙第四号証、証人山本須和子の証言、原告山本泰久本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ右認定を左右するに足りる証拠はない。

(1) 訴外亡サダ子は、前記のとおり明治四一年三月一七日生まれの女性であり、長男である原告山本(昭和一〇年生まれ)がその妻である訴外須和子(昭和一二年生まれ)と結婚した昭和四〇年当時からその夫とともに同人らと同居し、昭和四九年にはその夫と死別し、本件事故のあつた昭和六一年当時まで、同長男夫婦およびその間の子であり当時既に高校を卒業して会社員として働いていた同夫婦の長女治永子(昭和四一年生まれ)、当時高校在学中であり、現在は下宿のうえ大学に通つている次女佳代子(昭和四三年生まれ)とともに暮らしていた。

(2) 原告山本は和歌山市役所吏員として働き、その妻である訴外須和子は昭和四四年から和歌山県等主催の競輪場で庶務の仕事をはじめ、現在に至るまでその仕事を続けていて、その勤務日数は一か月あたり二〇日ほど、勤務時間は午前一〇時あるいは一〇時半ころから、午後五時あるいは五時半ころまでであつて、その年収は昭和五六年金二〇七万円余り、昭和五七年金一六八万円余り、昭和五八年金二〇七万円余り、昭和五九年金一八九万円余り、昭和六〇年金一九三万円余り、昭和六一年金一七四万円余り、昭和六二年金二〇二万円余りであり、本件事故後も同人は従前と同様に勤務を続けていて、同人はその翌年である昭和六二年にも右のとおり金二〇〇万円をこえる収入を得ている。

(3) 訴外亡サダ子は、本件事故によつて死亡する以前、原告山本夫婦が前記のとおりいわゆる共働きであり、訴外須和子は毎月平均二〇日は勤務に行き、それらの日は朝から夕方まで家をあけるので、訴外亡サダ子はその留守番をするほか、炊事をしたり、洗濯物を干したり、夕飯の準備をしたり、買物をしたり、掃除をしたりと訴外須和子の家事を手伝つたりしていた。

(4) なお、原告らは、訴外亡サダ子が原告山本一家の家事一切を行なつていたかのように主張し、それに沿う原告山本泰久本人尋問の結果があるが、訴外須和子が健康であり、本件事故当時なお四〇歳代の主婦であるのにもかかわらず、前記のとおり月一〇日余の勤務がない日および勤務日の早朝あるいは夕方から夜にかけて、家事を訴外亡サダ子に任せ、家事をしないというのは社会通念・常識に著しく反するものであつて採り難い。かえつて、前記認定のとおり訴外須和子が、本件事故により訴外亡サダ子が死亡した後も従前と同様に勤務し、同様の収入を得ているとの事実(原告らの、訴外須和子の非常な努力によつて、本件事故後もどうにか家事を維持しているにすぎないとの主張は、原告山本一家の家族構成が、いずれも健康な原告山本、訴外須和子、同人らの二〇歳前後の娘二人であるとの事実に照らし採りえない。)並びに弁論の全趣旨に照らし、前記認定のとおり、訴外亡サダ子は、被告主張のとおりこれといつた仕事も持つていないので、訴外須和子が勤めに出かけた際の留守番、買物、掃除、夕飯の準備、洗濯物干し等いわば体力を要しない家事を行ない、その余の日は訴外須和子の家事の手伝いをしていたものに過ぎないと認めるのが相当である。

(二)  以上の事実に鑑み、訴外亡サダ子に逸失利益があつたか否かについて判断する。

(1) 一般に、主婦等家事労働者については、その家事労働を金銭的に評価し、賃金センサスの平均賃金により過失利益が算定されるものと解されるべきであるのは原告らの主張のとおりである。

しかし、本件においては前記認定のとおり、原告山本一家には共働きとはいえ訴外須和子という主婦が家事の中心になつていたことは前記認定のとおりであり、このような場合も含め、一般に逸失利益があるというためには、その生活に要する費用を上回る労働をし、あるいは生活に要する費用を上回る労働能力を有していることが当然の前提となるべきものであると解される。

本件においては、原告らは、前記のとおり訴外亡サダ子の生活費として年間八七万円余を要することを自認していて、これは弁論の全趣旨に照らし相当なものとして是認されうるに足りるものであると解されるので、本件においては、関係各証拠によつて、訴外亡サダ子の行なつていた前記家事労働が訴外亡サダ子の年間生活費である金八七万円余を上回つているものと評価しうるか否か、さらに本件事故後、原告主張の訴外亡サダ子が満七七歳から満八二歳に至るまでの五年間の期間中、その生活費である年間八七万円余を上回る家事労働をなし得たか否かについて判断することになる。

(2) 前記認定のとおり、訴外亡サダ子はこれといつた仕事等も持つていないので、訴外須和子が勤めに出かけた際の留守番、買物、掃除、夕飯の準備、洗濯物を干す等いわば体力を要しない家事を行ない、その余の日は訴外須和子の家事の手伝いをしていたものに過ぎないものであつたこと、原告山本家の前記家族構成からすると、病人の看護あるいは乳幼児の世話をする必要もないこと、また本件事故当時の訴外亡サダ子を除く四人の家族のうち男性は原告山本一人であり、その余はいずれも青壮年の女性であり、原告山本には訴外須和子という健康な妻がいることを考え合わせると、原告山本一家における各人の身の回りのことについて訴外亡サダ子がする余地はほとんどないであろうこと等の諸事情に鑑み、また本件全証拠によつても、本件事故以降五年間内に訴外亡サダ子の家事労働が増え、あるいはその労働能力が増えるといつた事情も認められない本件においては、本件事故当時訴外亡サダ子の行なつていた家事労働に対する金銭的評価及び訴外亡サダ子の満七七歳から満八二歳までの五年間における家事労働に対する金銭的評価としては、訴外亡サダ子の家事の手伝いは同居者としての情宜に基づくもので金銭的評価をなしえない、すなわち金零円と評価すべきであるとの被告の主張までは採用しえないものの、本件全証拠によつても前記訴外亡サダ子の生活に要する費用年間八七万円余を上回わるものとは認めることができない。

なお、原告が主張する賃金センサスは、満二〇歳から満六四歳までは五年ごとに統計処理をし、統計処理の便宜から満六五歳以上を一括して平均賃金を算出しているものと解されるから(その労働者数も他の年代に比べごくわずかであるにすぎない。)、一般的にも、満七七歳ないし満八二歳の高年齢者の賃金所得についてまで、単純に満六五歳以上として一律に評価すべきものとは解することができない。

(3) 以上の次第で、訴外亡サダ子に家事労働者としての逸失利益があるとの原告らの主張は、これを認めるに足りる証拠はなく理由がない。

3  前掲各証拠並びに弁論の全趣旨により訴外亡サダ子が本件事故により死亡したことによる慰藉料としては、前記のとおり訴外亡サダ子は本件事故当時健康であつたとはいえ満七七歳の高年齢者であり、春秋に富み人生これからというものでもなかつたこと、近親者としてもその子二名とそれらの子である孫がいるだけで、一家の経済的支柱あるいはそれに準じるものでもないことを考慮すると原告ら主張の金一六〇〇万円は高額に過ぎるものと解されるが、訴外亡サダ子は本件事故により自己に何らの過失もないのに被告の重大な過失のためその生命を奪われたものであつて、その心痛は察するに余りがあること等本件に顕れた全事情を考慮したうえ、死亡慰藉料としては金一三〇〇万円をもつて相当と解する。

4  いずれも原告山本泰久本人尋問の結果により成立が認められる甲第八ないし第一四号証、同本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告山本は、喪主として訴外亡サダ子の葬儀費用として金一〇〇万円を下回らない支出をし、そのほか山本家の墓を新たに建て、その墓石代金等として金八三万円の支出をしたとの事実が認められるが、死亡当時の訴外亡サダ子の年齢および社会的地位、喪主である原告山本の社会的地位等の諸事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係にある損害として、被告が原告山本に対し賠償すべき義務のある損害金額としては金八〇万円をもつて相当と解する。

5  原告両名は、本件事故により、自賠責保険から各自金五〇六万六〇〇〇円の給付を受け(これには、前記訴外亡サダ子の治療費も含まれる。)、さらに原告山本は葬儀費用の一部として、被告から金六〇万円の給付を受けたとの事実は、いずれも原告らが自認するところである。

6  被告が自賠責保険より支払われた分を含めても、本件事故による損害賠償の一部しか履行しなかつたため、原告らは弁護士である本件訴訟代理人に訴訟の追行を委任せざるを得なかつたことは弁論の全趣旨により明らかであり、本件訴訟の難易、認容額等の事情によれば、原告らが被告に対する関係で請求しうる本件事故と相当因果関係がある弁護士費用としては原告ら各自について金二〇万円が相当である。

三  以上の事実によれば、本件事故によつて、原告らが被告に対し不法行為による損害賠償請求権に基づいて請求しうる損害賠償の金額は、原告山本について金一八四万三、六〇〇円、原告渡辺について金一六四万三六〇〇円および右各金員に対する本件事故の日である昭和六一年三月八日から民法所定の年五分の割合による遅延損害金であるものと解され、原告らの被告に対する請求には右各金員の支払を求める限度で理由があるからそれぞれこれを認容し、原告らの被告に対するその余の請求にはいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担については民訴法八九条、九二条、九三条に、仮執行の宣言について同法一九六条にそれぞれ従い主文のとおり判決する。

(裁判官 西野佳樹)

計算式1

亡訴外サダ子

Ⅰ 逸失利益

〈1〉 年収 2,175,400

〈2〉 勤続可能年数(5年間) 5

〈3〉 新ホフマン係数 4.3643

〈4〉 生活費控除の割合〔パーセント〕 40

〈5〉 生活費(〈1〉×〈4〉÷100) 870,160

〈6〉 小計((〈1〉-〈5〉)×〈3〉) 5,696,459

Ⅱ 治療費(〈7〉) 19,200

Ⅲ 入院雑費・付添費(〈8〉) 6,000

Ⅲ 慰藉料(〈9〉) 16,000,000

以上小計Σ0(〈6〉+〈7〉+〈8〉+〈9〉) 21,721,658

原告山本

Ⅰ 亡訴外人に対する相続分の割合(〈1〉) 0.5

Ⅱ 相続分(〈2〉〔Σ0×〈1〉〕) 10,860,829

Ⅲ 葬儀費用(〈3〉) 1,000,000

小計〈4〉(〈2〉+〈3〉) 11,860,829

Ⅳ 損益相殺

自賠責保険(〈5〉) 5,066,000

その他(〈6〉) 600,000

小計〈7〉(〈5〉+〈6〉) 5,666,000

Ⅴ 弁護士費用(〈8〉) 600,000

以上合計Σ(〈4〉-〈7〉+〈8〉) 6,794,829

原告渡辺

Ⅰ 亡訴外人に対する相続分の割合(〈1〉) 0.5

Ⅱ 相続分(〈2〉〔Σ0×〈1〉〕) 10,860,829

Ⅲ 葬儀費用(〈3〉) 0

小計〈4〉(〈2〉+〈3〉) 10,860,829

Ⅳ 損益相殺

自賠責保険(〈5〉) 5,066,000

その他(〈6〉) 0

小計〈7〉(〈5〉+〈6〉) 5,066,000

Ⅴ 弁護士費用(〈8〉) 600,000

以上合計Σ(〈4〉-〈7〉+〈8〉) 6,394,829

計算式2

亡訴外サダ子

Ⅰ 逸失利益

〈1〉 年収 ―

〈2〉 勤続可能年数(5年間) ―

〈3〉 新ホフマン係数 ―

〈4〉 生活費控除の割合[パーセント] ―

〈5〉 生活費(〈1〉×〈4〉÷100) ―

〈6〉 小計((〈1〉-〈5〉)×〈3〉) 0

Ⅱ 治療費(〈7〉) 19,200

Ⅲ 入院雑費・付添費(〈8〉) 0

Ⅲ 慰藉料(〈9〉) 13,000,000

以上小計Σ0(〈6〉+〈7〉+〈8〉+〈9〉) 13,019,200

原告山本

Ⅰ 亡訴外人に対する相続分の割合(〈1〉) 0.5

Ⅱ 相続分(〈2〉〔Σ0×〈1〉〕) 6,509,600

Ⅲ 葬儀費用(〈3〉) 800,000

小計〈4〉(〈2〉+〈3〉) 7,309,600

Ⅳ 損益相殺

自賠責保険(〈5〉) 5,066,000

その他(〈6〉) 600,000

小計〈7〉(〈5〉+〈6〉) 5,666,000

Ⅴ 弁護士費用(〈8〉) 200,000

以上合計Σ(〈4〉-〈7〉+〈8〉) 1,843,600

原告渡辺

Ⅰ 亡訴外人に対する相続分の割合(〈1〉) 0.5

Ⅱ 相続分(〈2〉〔Σ0×〈1〉〕) 6,509,600

Ⅲ 葬儀費用(〈3〉) 0

小計〈4〉(〈2〉+〈3〉) 6,509,600

Ⅳ 損益相殺

自賠責保険(〈5〉) 5,066,000

その他(〈6〉) 0

小計〈7〉(〈5〉+〈6〉) 5,066,000

Ⅴ 弁護士費用(〈8〉) 200,000

以上合計Σ(〈4〉-〈7〉+〈8〉) 1,643,600

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